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    「うん?」

    「ありがたう。――あ、大きいね」

    「あら!」

    鍵屋へ招かれた時から房一の頭を占めていた考へは、その席で恐らく河原町の人達が彼をどんな風に見ているかがはつきり判るだらうといふことだつた。かういふ集りでは皆が皆自分の据ゑられる席の上下を可笑しい位に気にする習慣を房一はよく知り抜いていた。

    「やあ」

    「あれから――あんたに鮒をとつて上げようと思つて、今さつきまで淵に附いとつたんだが、たつたこれつぽちきり獲れなくてね。上げるといふほどの物ぢやないけんど――」

    「居なくたつて訴訟はいくらでもできらあね」

    房一は患者の前にもどつて来た。

    「ふむ、ふむ。――どなたでしたかね。お名前は?――ふむ、ふむ。――住所は?いや、字あざはどこでしたかな――ふむ、ふむ」

    瞬間、房一は緊張した。道平が急変したのかと思つた。さうではないらしい。急患だらうか。それだと、こんな風ではなく、もつと低くおろおろした風に云ふ筈だ。彼は手をやめて、耳をすませた。

    今泉にはやつと徳次の考へていることが判つたので、熱心に説明した。

    「チブスじゃないです。医者は何とか言っていたですが、まあ看病疲れですな。」

    「まあ、とにかく、御迷惑かもしれないが、一度御足労を願ひたいと思つてね」

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