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この時さう云ひながら座に入つて来た者があつた。それは今泉だつた。
「君は昨日その九州から来た連中を赤山へ案内して行つたちふぢやないか」
「はい」
房一の老父、道平が二三日前に倒れたのだつた。そして、今、練吉に対診を求めて来たのである。
聞えないといふしるしに、房一は手を振つて見せた。それが盛子にも解りにくいらしく、しばらくためらひ気味に立つていたが、やがて河原へ下る段を降りはじめた。
徳次は指で真似をした。
「はゝゝ、でもカワラケにはちがひない、それがかうひよつとね」
房一は暑さのために鼻の頭に汗粒を浮かべて、気のない調子で相槌を打つた。その様子でも判るとほり、彼はさつきからまるで別のことで気をとられていた。
「なあんだ、まだ訴訟してるのか」
「ほう、クレーといふのはカワラケのことかね」
「どこの訴訟だ。なに鍵屋、うん、相沢か」
「あ、さう云へば」