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「うむ、わしか」
また夕方、溪ぎわへ出ていた人があたりの暗くなったのに驚いてその門へ引返して来ようとするとき、ふと眼の前に――その牢門のなかに――楽しく電燈がともり、濛々もうもうと立ち罩こめた湯気のなかに、賑やかに男や女の肢体が浮動しているのを見る。そんなとき人は、今まで自然のなかで忘れ去っていた人間仲間の楽しさを切なく胸に染めるのである。そしてそんなこともこのアーチ形の牢門のさせるわざなのであった。
「君に云つとくが、何んだぜ、小倉組の者なんかにかゝり合ひをつけちやいかんぜ」
「あゝ、さうだつた。なあんだ!」
と、横合から老父の道平が房一に寄り添つて来た。
「あ、お帰んなさい」
「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」
と、案外冷静に云つた。
その時やつと、男は少しうなづいた。そして背中に負はれて出て行つた。
さう云ふと、男は入口に待つていた印袢纏の背の高い男とつれ立つて、高間医院を出て行つた。
「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」
「何かね、わしがどうしたといふんかね」